記憶の備忘録

日々を綴ります

【宮本輝】優駿

優駿〈上〉 (新潮文庫)

優駿〈上〉 (新潮文庫)

優駿〈下〉 (新潮文庫)

優駿〈下〉 (新潮文庫)

私がこれまで読んだ中で、初めて読んでから常に上位3作品にずっと入り続けている作品である。

心にすっと冷たい風が吹いた時に、常に手に取ることが多い。

特に下巻のp.40、p.130あたりは思わず涙が出てしまう。

「どいつもこいつも夢がねェや。たいそうな夢を持たなくたって、食って行ける。みんな先のことなんて考えねェで、やれ女だ、やれ車だ、やれ外国旅行だって遊び呆けてやがる。でも坊やは一発かましてやるって面してるよ。若い者はそうじゃなくっちゃいけねェや」

「夢なんか持つな。夢を持つから苦しむんだって、何かの映画のセリフにあったわ」
「じゃあ、夢も目標も持ってねェ男と結婚するの? 金だけはあるってェ男と」

「坊や、人間、何か事をやろうって決めたときにゃあ、必ずその行き脚をさえぎるような禍が起こってくるもんだ。俺は学もねェただのつまらねェ博労だが、長生きしてるうちに、それが判ってきた。不思議なことだが、その禍ってのは、自分の一番弱いところをついてくるぜ。それでみんな前へ進めなくなっちまう。ところがこれも不思議なことに、ちくしょう、こんな禍なんかふっとばしてやらあ、俺は行くんだって腹くくったら、禍はいつのまにか消えちまう」